日本の匠シリーズ 日本の匠シリーズ

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vol.3 銅製の玉子焼鍋 東京都足立区/中村銅器製作所の玉子焼鍋

料理人の調理道具として愛用されてきた玉子焼鍋が、今再び家庭料理へ「匠の技」を添える。

安価なモノが溢れる時代だからこそ、伝統を受け継ぎ、道具として真に突き詰めた逸品をご家庭でも。

古くから愛用されてきた銅製の調理器具。その熱伝導性の良さと高い保温力は調理に適しているほか、食材の良さを引き出すものとして、プロの料理人には欠かせない道具となっています。それに対して一般の家庭で使用される調理器具は、単に作るための効率性や使い勝手だけを求め、器具の素材などにはこだわらない安価な物が多く見られます。

その昔、台所に一つはあった銅製の玉子焼鍋。その燻し色の銅鍋で作る、少々面倒でもダシを利かせた玉子焼きは、もはや料亭の暖簾をくぐらないと出会うことができないメニューになっているようです。しかしながら、プロが一目置く厨房御用達の銅鍋が、ご家庭の台所用としてでも、思いのほか気軽に手にすることができることを知ると、あとは料理の腕をあげるだけで、あのふかふかの、粋で美味しい玉子焼きが作れるようになります。その銅製の料理器具とは、中村銅器製作所の玉子焼鍋にほかなりません。

銅製の玉子焼鍋を作る銅鍋職人の中村恵一さん

まず丁寧に作る工程が美しい。さらに仕上がった銅鍋は見た目も美しい。美しさを極めるのも職人の技。

中村銅器製作所の玉子焼鍋は、玉子焼きをふわっと優しい食感にしてくれます。その決め手は、卵の美しく艶やかな表情を仕上げるための、銅鍋の表面の塗りです。鍋の内側は銀色に輝く錫材が敷かれています。最近の鍋のほとんどは錫塗りを機械でのメッキ加工に頼っているそうですが、同製作所ではその一つ一つが手塗りで、錫塗りももちろん手作業で行います。

「うちは錫を溶かして手塗りだからメッキよりも厚く、そう簡単には剥がれない」と語る銅鍋職人の中村恵一さん。錫塗りが最終仕上げであり、最も難しいと説明しながらの作業では、直角の四隅は熟練のなせる技。仕上げは何度も真綿で錫を均一に平たく整える作業に余念がありません。中村さんの手の中で仕上がっていく玉子焼鍋は、その工程とともに美しさが増し、やがて銅鍋自身がよりいっそう美しく輝き始めているように見えました。

美しく仕上がげる銅製玉子焼鍋

何年も、何世代までも使えること。長く愛用されつづける唯一無二の調理器具だという誇り。

商品を大量に消費し、大量に生産していくという時代は過去の話です。自分に合った確かなモノをできるだけ愛着をもって使い続けたい、と考える方が増えてきていると思います。何年も、何世代でも使いたいというご要望を、同製作所の玉子焼鍋は応えます。

「この鍋でおばあちゃんがよく玉子焼きを作ってくれて、その味が忘れらえないから直して使いたい」。かつて同製作所で生まれた調理器具が、何十年の時間を経て使いこまれて戻ってくることがあるそうです。

どんなに大切に使っていても、モノはモノです。勲章のように記された鍋のキズや歪み、錫(スズ)剥がれなどは、すべて修理対応していると中村さんは話します。再び持ち主にお戻しする時は、まさに新品同様でお使いいただけるように、道具に新たな命を吹き込みます。そんなアフターフォーローがあるからこそ、良いモノは安心して購入できるのです。値段では付けようのない価値観があります。長年使っていただくことを前提に、それは一生涯、次の世代までも愛される道具であることが、道具としての誇りであり本物と言えるからではないでしょうか。

鍋の内側に丁寧に銀色に輝く錫材が敷かれる玉子焼鍋

指導手順を記したマニュアルや口承ではない。「見て感じて覚える」それこそが中村銅器製作所の伝承作法。

創業80年以上の老舗工房、中村銅器製作所は、親子四代で変わらぬ伝統の技と心意気を守り続けています。その伝承方法は言葉や技術を教えるのではなく「見て感じて覚える」ことに託されます。打ち付けの道具はどう持つのか、錫塗りはどのような手捌きなのか、銅を曲げる時のタイミングはどうなのか。さらに道具への向き合い方、息づかい、匠としての姿勢や主義主張など。全行程を丁寧に確実に進めていくことで、心と体で覚えるそうです。

そして中村さんの息子さんお二人にも、その技と心意気は受け継がれていました。この世界に入って七年目という長男の中村太輔さん。「もう一人前だ」と師匠でもあり父から太鼓判を押されても、ご本人は「まだまだです」ときっぱり、自分に厳しくしている様子です。いい表情の頼もしい後継者になっていました。

創業80年以上の老舗工房、中村銅器製作所

物は作るのではなく、手の中から生むもの。作り手の人柄や心意気を道具に託して、お客さまのお手元にお届けしています。

時代に習い、新しいモノとのコラボ商品の開発は過去にはいくつかあったようです。瓢箪の形をした特注鍋や大きな四角いおでん鍋、囲炉裏にはめ込む銅こうなど、どういう形であれ本質そのものの製品づくりにブレはないと中村さんは語ります。

中村さんご自身、生まれた時から作業場のある生活が普段の暮らしそのもの。幼少期から銅に親しみ、先代の職人の背中を見て育ったと言います。銅器製作の職人となったのは、自然の流れだったと話します。だからこそ「物は作り出すのではなく、手の中から生まれてくる」というお話も説得力があるのかもしれません。

「職人」というと無口で孤高な方をイメージするところですが、中村さんはお会いした瞬間から温和でにこやかな印象でした。その中村さんが生み出す銅製の玉子焼鍋が「ふわっと優しいお味」になるのは、そのお人柄からくるものかもしれません。

完成した中村銅器製作所の銅製の玉子焼鍋
親子で伝統を受け継ぐ中村銅器製作所
取材手記 ライター高橋千織
大事に使いつづけたい玉子焼鍋。

中村銅器製造所の銅鍋で玉子焼きに挑戦してみました。油慣らし間もないというのに、全く卵がこびり付かず肉厚のきれいな卵焼きに仕上がりました。これは美味しい。やはり道具にこだわって作る料理は、ちょっと違う。いつもの調理器具を横に置いて、その銅という素材の素晴らしさに感動してしまいました。これは長く使える、使わなくてはいけない道具だということを感じました。長きに渡り「よろしくお願いいたします」と、銅製の玉子焼鍋にそっと声をかけていました。

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■記事公開日:2015/10/09
▼編集部=構成 ▼編集部ライター・渡部恒雄=監修 ▼高橋千織=文 ▼編集部ライター・渡部恒雄=撮影

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