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日本の匠シリーズ

vol.4 日本の畳み 東京都品川区/加藤畳店の手縫いの畳み

日本の住まいに欠かせない畳み。その歴史は二千年以上も前に遡ります。

宝暦十一(1761)年創業の老舗の畳店。今も当時と同じ東京・品川で、手縫いにこだわりながら息づいています。

日本古来の文化の一つとも言える畳み。その原点は、ムシロ、ゴザなどの、手縫いによる薄い敷物だと言われ、二千年以上も前から日本人の暮らしに息づいていました。主な畳みの製法は大きく分けて二種類あります。昔ながらの手縫いか効率的な機械縫いです。私たちが一般家庭で使用する現在の畳みの多くは、機械縫いとなっています。それでは職人の経験と伝承技術、材料にもこだわる昔ながらの手縫い製法は廃れてしまったのでしょうか。

江戸の宿場町となる品川で、手縫いによる畳み文化を脈々と受け継いでいる畳店がありました。今から二百五十年以上も前の宝暦十一(1761)年に屋号「湊屋(みなとや)」として看板を立て、現在では地元では知らない人がいないほどの老舗店、明治になり屋号を改名した「加藤畳店」です。

手縫い製法を受け継ぐ東京品川の加藤畳店

格別な趣がある加藤畳店の畳みの張り。

江戸、明治、大正から昭和戦前時代まで、住文化には欠かせなかった手縫いの畳みを、現在で十四代目となる店主はどのような想いで仕事に取り組んでいるのでしょうか、お話を伺いました。

「地元の寺の過去帳に、加藤畳店は二百年以上の歴史があると記されています。歴史については先代から口頭で伝えられてきてましたが、古文書に自分の店の名があるのを目の当たりにして、仕事への愛着と責任の重さを感じました」。この時から、十四代が想う仕事の情熱といいますか情念のようなものが、畳みの張り具合に伝わるようになったと述懐します。なるほど、手作業を基本としている加藤畳店が"一枚入魂"で生み出す畳みの張りには格別な趣が漂っています。

手縫いの畳みと言いますと元来、畳みの基盤となる畳床はワラでした。もちろんご注文いただければワラ床でも作れる技術は加藤畳店の強みです。しかし現代的な今の住宅ではワラ床は適していません。手縫いだからと言ってワラ床に頑固にこだわるわけではありません。手間はおしまないが、畳床に固執しないことも大事。受け入れられる確かな最新の材料を吟味しなくてはいけない、と職人は言葉を継ぎます。

一枚入魂で丁寧に丹精を込めて作られる畳み

畳みのグレードに関わらず、手がける全ての畳みには、最上級の技術と魂を惜しまずに注ぎます。

もともと手縫いを伝統作法としている加藤畳店ですが、床材がワラでなくても、例えば畳表を張ったり隙間を埋める作業は職人の手によるものです。工程には最新の注意とこだわりをもって丁寧に作業をする技が、すでに店主の身体に染みこんでいます。日本人の生活様式が変わり畳床の素材が変わっても、請け負う仕事は、代々受け継がれた職人の血が騒ぐと言います。

十四代の加藤丈幸さんの手になる逸品の畳みにはグレードが設けられています。神社仏閣やお茶室などでは国産い草を使用したワラ床で、全行程が手縫いとなります。い草の香り高く、表面の張りは凜としていて、麻織物を藍染めした縁には品がある最上級品です。グレードは、そのワラの量と質などにより4から1級、そして特級があります。

加藤畳店では、この最上級品が作れる技をグレードに関わらずに惜しまず注いでいます。例えば屋形船で敷き詰める畳みに求められるのは、畳みの風合いはそのままで、しかし汚れにくく擦り切れに強く、さらに防水加工を施していることが条件となります。もともと日本の気候風土にあった畳みですが、より気密性の高いマンションなどでは、吸放湿性や断熱性、吸音性に優れたインシュレーションボードというパルプを圧縮させた材を使用します。そんな需要にも高尚な技術で応えます。

加藤畳店十四代の店主が作るこだわりの手縫い畳み

従来のスタイルに縛られることなく
様々なご要望にお応えしていくのも
加藤畳店の仕事です。

伝統的な手法と現代の材とのコラボレーションから生まれる加藤畳店にスペインの方からご注文いただいたことがあるそうです。い草を使った本格的な畳み12枚をスペインに送りたいとのことでしたが、残念なことにい草やワラは検疫で足止めされてしまうことを知り、仕方なく畳床へのこだわりはあきらめていただきました。しかし、実際にスペインに納品したものをご覧になり、素材の違いがわからないほどだったと好評をいただいたそうです。材にこだわらなくても、日本文化の畳みの魅力、手縫いの風合い、肌触りの心地よさなど、加藤畳店の真骨頂ではないでしょうか。

他にも銀座のショールームで商品を展示するための台座を畳みで作って欲しいとのオファーをいただくなど、様々なスタイルに合わせた畳みの発注が増えているようです。いずれもこれまでにないデザイン形状ということで職人泣かせなご依頼にも「従来のスタイルに縛られることなく、自分では気がつかない視点でお話をいただけることを受け止め、作品として位置付けし、寡黙に取り組んでいます」と熱く語ります。

熱い気持ちが指先に伝わり畳みを作り上げていく

日本文化と共に、世界に通用する手縫いの畳みを作り続けていきたい。

「若い頃、オーストラリアにツーリングに行ったことがあるんです。たいへん好きになりまして、まずはオーストラリアの友人たちに畳みを広めたいと考えています」と十四代目の加藤丈幸さんは言います。「ワールドワイド」という言葉がふと浮かびました。元来は「世界基準」「世界中に通用する」という意味です。加藤さんが捉える「まずはオーストラリアから」という含みは底が知れないのかもしれません。その熱意は、職人が減りつつあるといわれる日本の未来にも向けられていました。

「畳み職人は宮大工のように特殊です。だからこそやり甲斐がある。何よりも歴史文化の中で息をする仕事だということです」と誰よりもワイルドに熱く語る加藤さん。その一方で「現場に納めるときの枠に、一ミリの隙間なくピタリと仕上がった瞬間」と職人らしい、きめ細やかさへの技術挑戦が楽しくて仕方がないという表情を浮かべます。 細かな手作業が得意とする日本文化と共に、世界にも認められたいという畳みワールド。そこには無限の可能性が秘められていました。

現代の住まいにも柔軟に対応する畳み
十四代の加藤丈幸氏
取材手記 ライター高橋千織
次世代へ受け継がれていくべき畳み文化。

創業以来、二百五十年以上も手縫いの作法を守る畳店にお伺いしました。我が家の和室にも敷かれている畳ですが、こんなにも奥深いものだということに驚きました。日本の住空間では馴染み深い畳み文化を知る良い機会をいただけましたこと、ありがとうございます。畳みの部屋に入ると凜となります、そして癒やされます。この畳み文化、私たちも守り、次世代へ受け継がれていかなければならないと強く思う取材でした。

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■記事公開日:2016/03/28
▼編集部=構成 ▼編集部ライター・渡部恒雄=監修 ▼高橋千織=文 ▼高橋千織=撮影

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