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Vol.12御社は大丈夫? 管理職のメンタル不調


ストレス社会と言われる現在、メンタルの不調を訴えるビジネスパーソンが増えています。人材難が言われる中、社員のメンタル不調が会社に与える影響は極めて大きく、ここ数年は、「メンタルヘルス対策」に取り組む中小企業も増えてきました。こうした中、より深刻なのが、会社の中核を担う管理職のメンタル不調で、発覚した時点では病状は進んでいるケースも少なくないそうです。
「メンタル不調は、必ずしも個人の気質の問題だけではなく、会社の経営課題でもあるのです」と話すのは、産業医として、専門的立場からメンタル不調と向き合い、指導・助言をおこなっていらっしゃる神野範子先生。自分からは、なかなか「調子が悪い」と言い出せない"生真面目な中間管理職世代"の傾向を踏まえ、早期発見、早期相談、早期治療の大切さをアドバイスいただきました。
Q.

メンタル不調の原因は?

単刀直入に言えばストレスです。人間関係、仕事の質、仕事の量、この3つが"職場の3大ストレス要因"と言われています。今私が訪問している企業の1つは、最近、組織編成があって人が減り、まず、個人の仕事量が圧倒的に増えました。加えて、今まではタイプAの仕事しかしていなかった方が、タイプBの仕事も任されるようになって仕事の質まで変わってきた。つまり、今まで培ってきたスキルとは完全にミスマッチな領域においても仕事に向き合い、成果を挙げることが求められるようになったのです。とくにそれが企画や設計等の仕事であったりすると、それまでとは違う頭の使い方が求められます。ところが、管理職ともなれば上司に相談したところで「それを何とかするのが君の仕事だろう」ということになり、上司がストレスの緩衝材になりません。こうしたことで、メンタルに不調をきたす方が少なからずいらっしゃいます。

さらに、普遍的な要因として挙げられるのが"仕事を振れない症候群"です。管理職クラスのベテランには、仕事に対する"理想の着地点"のようなものがあって、「人に任せてやり直すくらいなら、自分でやった方が早い」と思っている方がとても多くいらっしゃいます。その結果、仕事量がどんどん嵩み、追い込まれ、最終的にはメンタルが悲鳴を上げることになる。本来ならば、「責任は俺がとるから、最後まで自分でやってみろ」というくらいの気構えが必要ですが、ビジネスにスピードが求められる今は、組織の風土がそれを許さないというケースも少なくありません。つまりメンタル不調は、必ずしも個人の気質の問題だけではなく、会社の経営課題にもなりつつある。これは今後、あらゆる企業で問われてくる問題です。

"仕事を振れない症候群"も
メンタルの不調の原因
Q.

人間関係が及ぼすリスクとは?

若手社員に話を聞くと、「自分はここで何をしているか分からない」という方が結構います。「とりあえず頑張っているけれど、この仕事が何につながるかが見えてこない」と。これは大事な指摘で、プロジェクトのビジョンや業務の重要性がきちんと伝わっていない証拠です。「自分が手掛ける仕事にはこういう価値がある」ということを理解できてこそ、人は初めてモチベートされるし責任感が生まれます。
ところが、そこまで仕切れていない。管理職自身も、会社が何をやろうとしていて、どんなビジョンがあって、どこに進もうとしているかを把握しているかというと、実際にはそこまで頭が回っていないケースが多い。結果、部下をきちんとリードできず、そのしわ寄せが自分に返ってきているのが現状です。

今は職場でも"個人の価値観"や"個性"が尊重される時代です。実は、そうした風潮に否定的だったり、行き詰りを感じている管理職が少なくありません。たとえば、Aさんには通用した話しぶりが、Bさんには全く通用しないということがあります。要は、一人ひとりに合わせた話し方や接し方が求められているわけですが、「俺たちの時代は上司の"鶴のひと声"で皆が同じ方を向いたのに」といった考え方を捨てきれず、今の風潮にものすごくストレスを感じているのです。
今も昔も本質的には、一人ひとりの考え方や反応が違うのは当然のことのはずです。ところが、現在の管理職は、ほぼ全ての方がプレイングマネジャーで、完全なオーバータスクなのです。それゆえに、「指示の仕方くらいでなぜ部下に気を使わなければならないのか」とか、「若手には、どう声をかけていいか分から ない」ということになり、またこうした方ほど"負のスパイラル"に入り込んでいるというのが現状です。
「どう声をかけていいか分からない」
という負のスパイラル
Q.

メンタル不調をケアするためには?

やれることはたくさんありますが、まずは、予防も兼ねたセルフケアの観点から、「最近、オーバーワーク気味かな?」と思った時には、"考え方のガス抜き"を習慣化することが大事です。メンタル不調に陥るのは、基本的に真面目で、ある種の完璧主義の方です。「なんとかして期待に応えたい!」とか、「完璧に仕上げたい!」という気持ちが強くなり過ぎると、考え方や態度に、遊びや隙がなくなります。仕事に向かう姿勢としては決して悪いことではありませんが、そうした時というのは、無自覚に"殺気だっている"ものなのです。殺気だっていれば、部下とのコミュニケーションは取れませんし、同僚や上司に対してすら近寄りがたい雰囲気を醸し出しているはず。周囲との距離がどんどん広がってゆき、孤独になります。

こうした状況を改善するためには、今、自分が手掛けている仕事がどれくらい重要かを検証する"業務の棚卸し"が大事です。冷静になって、「これは何のための仕事だろう?」と自問自答してみると、案外"仕事のための仕事"をしていた、などということが結構あるものです。そこで、「ならばここまで完璧に仕上げなくてもいいや」と思えればしめたものです。そんなガス抜きができるようになれば、余裕を持って周囲を観察できるようになりますし、部下に対しても適切な声掛けができるようになるはずです。
業務の棚卸しで、
仕事に対する考え方を"ガス抜き"
Q.

メンタル不調の症状は?

「何をやっても上手くいく気がしません」と産業医に自己申告してくる方も中にはいらっしゃいますが、実際にはそうした方は多くありません。むしろ人事や上長から、「最近この人は勤怠が乱れているので面談をしてください」といった理由などで回ってくるケースがわりと多いのです。そうした方の話を聞くと、ずっと仕事のことが頭から離れず、交感神経が優位に傾き、「眠れない」という訴えが非常に多くあります。なので、土日ですら仕事のことが頭から離れず、その結果、月曜日の朝が憂鬱になって、体が動かない、頭が痛い、胃が痛い、痺れがあるなど、人それぞれに、なんらかの身体症状が顕在化してきます。

「仕事に集中できなくなった」とか「ミスが多くなった」といったことを、本人が自覚できているうちはまだいいのです。それは、自分を客観視できているということです。むしろ深刻なのは、そうした時期を誰にも相談せずにやり過ごし、人事や家族から変調を指摘された方たちで、こうした時は、メンタル不調が進んでいる場合があります。「眠れない」、「以前よりも仕事に意欲が持てない」ということをサインに、ご自身でメンタルクリニックを受診する方はいますが、まだまだ受診のハードルは高いのが現実です。
精神科医や心療内科医による診察で、症状が重く、「今は、仕事は難しいでしょう」と判断されれば、一時的に休職を薦められる場合があります。一方、例えば、睡眠改善のための処方薬を内服しながら仕事を続けるケースもあります。いずれにしても、業務への意欲が薄れたり、明らかに集中力が続かなくなったと自覚した場合は、その時点で「もしかしたら」、と自分の中でアラートを立て、何らかの行動をとることが重要です。
自分の中でアラートを立て、
人に相談するなど行動を起こすことが重要

Point産業医 神野範子先生からの
メッセージ

メンタル不調は特別なことではなく、誰にでもあり得ることで、皆さんもその予備軍である。まずはここを認識してください。ところが、多くの方は「まさか俺に限って」と高を括って見過ごしてしまうことが多い。なぜなら、集中力が保てない、小さなことでもイライラする、口数が減る、こうしたことは、これまでにも経験があるからです。しかし実は、そこがメンタル不調の入り口かもしれないのです。
そして、もし、今自分がそうした状態にあることを認識したら、早期に行動に移してください。東洋医学の未病ではありませんが、なんとなく調子が優れないと思ったら、そのまま乗り切ろうとはせずに、人事担当者や産業保健スタッフ、メンタルクリニック、またはご家族など、とにかく誰かに相談してください。
今は、公的機関のメンタルヘルスの相談窓口もあります(「こころの耳電話相談」等)。その上で、ご自身でも、仕事内容やこれまでのマネジメント・スタイルを含めた、"自分の今"への気づきと改善を通じて、過剰なストレスを軽減しようという積極的な働きかけも大事です。
取材協力:Healthy Choice合同会社
東京都虎ノ門1丁目16-6 虎ノ門RAPO-TOビル7階
noriko0920@gmail.com
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■記事公開日:2019/09/11 ■記事取材日: 2019/08/20 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼イラストレーション=吉田たつちか

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