リーダーズ・アイ リーダーズ・アイ

リーダーズ・アイ

自分より能力や評価が高い選手はたくさんいた。秀でていたのは、自分を信じる力と諦めの悪さ。

4年に一度じゃない。一生に一度だ。
ラグビーファンにしてみると、なんとも心が揺さぶられるキャッチコピー。
いよいよ9月20日から、ラグビーワールドカップ2019日本大会が開催されます。
そんなラグビーイヤーにふさわしい今回のゲストは、
テストマッチ通算69トライの世界最多記録が評価され、
2016年にワールドラグビーの「ラグビー殿堂」入りを果たした大畑大介さんです。
ワールドカップのアンバサダーとして超多忙な毎日を過ごされる中、
キープレスのためにお時間を割いてくださいました。

日本においてラグビーは、まだまだメジャースポーツとは言えません。ただ、50代60代、或いはそれ以上の方の中には熱狂的なラグビーファンがいらっしゃいます。そういった方々と新しくラグビーに興味を持った人とでは、応援する熱の根拠が違います。1987年まではワールドカップもありませんでしたし、日本代表といってもそれほど大きな活動ができたわけではありません。昔は大学ラグビーが頂点にあって、応援している距離感も非常に近かった。オールドファンは競技としてのラグビーも好きだけれど、自分の出身校や出身地といった複合的な要素があって応援する人が多かったのです。ところが今は、純粋にスポーツとして日本代表チームを応援するようになっています。その大きなきっかけになったのが2015年のラグビーワールドカップ・イングランド大会での日本代表の大活躍でしょう。

それまでラグビーに興味がなかった人たちも、初戦の南アフリカに勝った時は「日本のチームがなんだかすごいことをやらかしたらしいぞ」と浮足立ちました。結果的には勝ち点差でスコットランドに劣り次のステージに進むことができませんでしたが、日本代表の頑張りを見て、多くの人がラグビーに気持ちが傾いたはずです。しかしこの4年間、その熱がずっと持続されてきたかと言えば疑問です。日本人は「熱しやすく冷めやすい」と言われますが、まさにそれです。それはそれでいいと僕は思っているんです。大事なことは、4年前にラグビーを通して日本中が一つになったという事実です。そしてまもなくその記憶が思い起こされようとしています。それが、今年の9月から始まる「ラグビーワールドカップ2019日本大会」です。

ラグビーの魅力を熱く語ることはしない

ラグビーは細かいルールが難しくて分かりにくいと言う人がいます。でも、細かいルールなど知らなくても十分に楽しめるのがラグビーという競技です。球技としての要素はもちろんですし、観方によっては格闘技の要素もあります。また15ものポジションがあって選手それぞれの役割も違えば、キャラクターだってかなり個性的です。いわば楽しみどころや突っ込みどころが満載のスポーツです。にもかかわらず「ここがラグビーの醍醐味なんだよ!」と熱く語る"ラグビー奉行"のような人が少なからずいます。そうした人の熱い思いを否定するものではありませんが、そもそも人に何かを勧めるということは、自分の熱を相手に与えるということです。もし、ラグビーに興味のない人が必要以上に熱く語られたら、それはもう、ただただ鬱陶しいだけです。ですから僕はラグビーの魅力を表立って熱く語ることはあえてしません。

そんなことを言うと、お前はワールドカップのアンバサダーだろ。先頭に立って「日本ラグビーを応援してください!」と熱く広くPRするべきじゃないのか? と思われる方もいるでしょう。でも大畑大介のアンバサダーとしての役割はそこではありません。アンバサダーは僕一人ではなく他に8人いて、それぞれにバックグラウンドが違います。新日鐵釜石(現・釜石シーウェーブス)一筋でプレーをされていた大先輩の桜庭吉彦さんを筆頭に、早稲田出身の増保輝則さん、明治出身の元木由記雄さん、若いところでいえば慶應出身の廣瀬俊朗など、まさしく日本のラグビー史を築いてきたメインストリームの古豪チームやラグビーの名門大学に身を置いてきた人たちばかりです。当然ながら、そういう人たちは伝統的にラグビーに対する深い熱を持っていて、周りもそれを認めています。また、そういう人たちだからこそラグビーの魅力を説得力をもって語ることができる。残念ながら僕には彼らほどの説得力はありません。

異なる役割を誇りをもってやり遂げる

先ほども言いましたが、コアなファンにとって出身大学は大きな意味を持ちます。僕の母校(京都産業大学)はラグビー界の中ではメインストリームではないので、仮に大畑大介ほどの男であったとしても発言がリスペクトされにくいんです(笑)。ですから、ワールドカップの組織委員会が僕に何を期待しているかも理解しています。僕がやるべきことは、全くラグビーに興味がない人にも目を向けてもらうこと。大きく言えばラグビー界の間口を広げることです。その一つの手段として、今はテレビやラジオといったラグビー以外の場所に積極的に出向いて"ラグビー出身の大畑大介"をより多くの人にお見せしているのです。いわば間接的なラグビーの啓蒙活動が僕に与えられた役割だと認識しています。

こうした構図はラグビーのプレー自体と変わりません。一つのチームの中には15もの役割があります。球技でありながら1試合80分の中で1度もボールを持つことのない選手もいれば、常にボールを触っている選手もいます。快足を飛ばしてグラウンドを走り抜ける選手の後ろでは、崩れたスクラムの中で泥まみれになっている選手もいます。同じラグビーではありながらも、与えられた役割によってそれぞれに成すべき仕事は違っていて、華やかに見えるポジションもあれば、そうでないものもある。でも、各人がそれをしっかりやり遂げなければチームは勝てません。

それは社会や企業の営みも一緒です。例えばメーカーなら、製品を企画する人がいてそれを設計する人がいる。設計図に基づいて製品化する人もいますし、販路を決めて営業をかける人や最終的に製品をお客さまのところにお届けする人がいてと、実にさまざまな役割があるはずです。そして、各々の仕事をする人が自分の役割にプライドが持てなければお客さまは満足しないだろうしビジネスは成功しないでしょう。では、そのプライドはどこから生まれるかと言えば、前の工程で誇りを持って成し遂げてきたものを「自分は託されているのだ」という責任感に他なりません。それはまさしくラグビーのボールの動きと同じですし、9人のアンバサダーが各々に果たす役割とも共通しています。自分の力が活かせるポジションを見極めて、自分の仕事に誇りを持ち、最大限の力を発揮することでトライは生まれる。ラグビーは社会の縮図のようなものです。

自己犠牲の先に勝利がある

基本的にラグビーは自己犠牲が前提となるスポーツです。その前提があって試合のストーリーが決まります。たとえば7人制ラグビーの試合なら僕の役割はたった一つ。トライをとることです。となると、チームの中では大畑大介のスピードを活かしてトライをとらせるためには他の6人がどういう動きをすべきかが決まります。それが曖昧だとチームは上手く機能しません。つまり「大畑ならトライがとれる」という確信を皆が共有してくれないとダメだし、逆に僕からすると「彼らなら限りなく素晴らしい仕事をしてくれる」という信頼関係が成り立たないと強いチーム、勝てる組織は生まれません。

そうした信頼関係は今日昨日集まったメンバーで築けるものではありません。普段の生活からお互いのキャラクターを知って、どんなパフォーマンスができるのかを把握できて初めて成し得るもの。事実、海外のチームに移籍した時、最初のうちは僕もボールを回してもらえないことがありました。

ラグビーはチーム内でボールをつなぐ場合、必ず後方の選手にパスをしなくてはなりません。つまり、人にボールを託すということは自分たちの陣地を下げることでもあり、不利益な状況を意図的につくることにもなるわけです。ですからボールを持っている選手から「こいつ大丈夫か?」と思われたら絶対にボールは回ってきません。しかし、選手間で信頼関係が築けていれば、ギリギリまで相手チームの選手を引き付けておいて、より良い状況をつくってからボールをパスしようと考えます。つまり、ボールは信頼の象徴でもあるんです。だからこそボールが多く集まるバックスの選手はチーム内で最も信頼されている存在だし、コーチやキャプテンとはまた違った意味でチームのリーダーになっているはずです。

ビジョンはあるか? それを共有しているか?

スポーツでもビジネスでもよく言われる、個の能力を高めるべきか、それともチームワークを大事にすべきか。これについては自論があります。大事なのは、チームワークか個人のスキルアップかではなく、まずは、組織の皆が同じビジョンを共有することです。
個々の能力がいくら高くても、皆が同じビジョンを共有していなければ結果は残せません。逆に、皆が同じビジョンを持っていれば、自ずと個々人のやるべきことは決まってくるはずです。仮に全員が「日本一になろう!」というビジョンを共有するのなら、日本一になるために自分は何をすべきかを個々が真剣に考えて、具体的な取り組みに落とし込まなくてはいけません。僕は自分で考えて自分で答えを出すことが一番大事だと思っているし、その積み重ねが個の力に結び付くとも思っています。人に言われてやっているようでは個の力を伸ばすことなどできません。ただ、明確なビジョンがなければ何をすべきかが考えられない。それを明文化するのがリーダーの役割です。

とはいえ、いくらビジョンが明確になっても、経験値や力量差もあるでしょうし、何よりビジョンに対する受け止め方にも温度差があるでしょう。たとえば、「日本一なんてデカいことを言っても無理に決まっている」と思う人も中にはきっといるはずです。ビジョンの着地点が高ければ高いほど、温度差は広がりがちです。しかし不思議なもので「必ず日本一になる!」と強く思い、それを繰り返し口にしていると本当に出来る気がしてくるものなんです。それはいわゆる自己暗示のようなもので、まさしく僕などは自己暗示でつくった人間ですよ(笑)。

僕のラグビー人生の中では、自分より能力や評価が高い選手はたくさんいました。でも僕は、そうした人たちと自分を比べることは一切せずに、「俺ならできる」と言い聞かせながら、自分が出来ることの幅を限りなく広げることだけを考えて、ありとあらゆるトレーニングを試みました。その甲斐があって今の大畑大介にたどり着けたのだと思っています。
人と違って突出した部分があったとするなら、自分を信じる力と諦めの悪さくらいじゃないでしょうか。高校でも大学でも日本代表に選ばれましたが、いずれもケガ人が出たための繰り上げでしたからね。ですから決して順風満帆だったわけではなく、なりたい自分を明確にイメージして自分が納得できるアプローチを続けていれば「欲しいものは必ず手に入れることができる」と確信したんです。もし、その確信は何が根拠になっているんだ、と言う人がいれば「根拠は大畑大介自身だ」というくらいの気持ちでいますね。

徹底的にブレないことがリーダーの条件

昔は力のあるリーダーが「黙って俺についてこい」という時代でしたが、今は下から上に押し上げるような時代になっていて、自分の権利を主張すれば、それがまかり通るような傾向なので昔と同じ感覚で若手と接するわけにはいきませんね。どんどん人に優しい方向にベクトルが向いている。これは皆さんの職場でもそうでしょうし、ラグビー指導の現場でも全く同じです。
それはきっと悪いことじゃないんだろうし、社会の流れなのかも知れません。ただ一つ言えるのは「この人、こんな指導をしていて大丈夫?」と思えるような人でも、振り返ってみたら「あの指導方法を貫いていたからこそ成果を残せた」ということが結構あるという事実です。そこにはリーダーのしっかりとしたポリシーがあったはずだろうし、当時から批判もあれば賛同する人もいたはずです。むしろ一番良くないのは、あれこれ手を出して考え方を変える日和見主義のリーダーです。

僕の経験則から言わせてもらえば「この人についていきたい」と思えるのは徹底的にブレない人です。もちろん、わけもなく「あれをやれ」「これをやれ」と言う人は昔も今もダメだと思います。大事なことは"やる理由"を論理的に説明してくれること。その上で「俺を信じてついてこい」というくらいの太い柱であって欲しいと思いますね。つまり、ビジョンだけを掲げて闇雲にやらせるだけではなく、相手が納得できる対話は絶対に必要です。
ただ、リーダーが優しくなり過ぎて若手を完全に引っ張り上げてはダメです。ヒントをあげて「答えを出したのはキミ自身なんだよ」と思わせてあげなくてはいけません。なかなか答えが出せない若手には、点線の上をなぞればきれいな文字が書けるようなヒントでもいいんです。つまり、誰でも出来るようなヒントであっても、最後は自分の手でフィニッシュさせることが大原則で、プロセスはともあれ成功体験をさせることが大事なんです。そこを考えると今の時代のリーダーは本当に大変だと思いますね(笑)。

グレードアップした日本代表を見てほしい

せっかくですのでこの場を借りて、ラグビーワールドカップ2019日本大会のアンバサダーらしい発言をさせてもらいたいと思います(笑)。
僕は今の日本代表チームには大きな期待をしています。なぜなら、こんなにも経験値を上げた日本代表はないからです。エディ・ジョーンズ(現イングランド代表監督)という名将に鍛えられ、世界レベルの基礎を築いた代表チームは、前回のワールドカップで一つの結果を残しました。そしてそれ以降も世界の上位チームと対戦を続けてきましたし、挙句の果てにはスーパーラグビー(世界15か国のクラブチームにて行われるラグビーユニオンの国際リーグ戦)にも参戦しています。戦績は決して良いとは言えませんが、かなり大きなストレスを自分たち自身に与えながら、それを確実にクリアしてきています。また、2015年大会で大きな成功を手にした選手たちは「さらに大きな成功を手に入れたい」と考えているはずです。

では今後、このグレードアップした選手たちにとって何が大事かというと、彼らがどんなビジョンを持つかです。それを日本代表の現リーダーであるジェイミー・ジョセフ監督がいかに舵取りしてくれるかが大事なポイントとなるでしょう。そこで皆が同じビジョンを共有すれば間違いなくこれまで以上に大きな力を発揮してくれるでしょうし、それを僕は信じています。皆さんもぜひ期待をしてください。

Leader's Profile
大畑 大介 Ohata Daisuke

元ラグビー日本代表/ラグビーW杯2019日本大会アンバサダー
1975年大阪市生まれ。京都産業大学時代から日本代表として活躍、1998年に神戸製鋼入社、日本のトライゲッターとして活躍し世界にその決定力を印象づけた。2001年にはオーストラリアのノーザンサバーブ・クラブでプレーし、2003年にはフランス・モンフェランに入団。2003?2004年シーズンからは神戸製鋼コベルコスティーラーズにプロ選手契約。その後日本代表キャプテンを務めW杯2度(1999年、2003年)の出場を果たす。さらには、両アキレス腱断裂を経験するもリハビリを乗り越え、代表試合トライ数世界新記録を樹立、その記録を69トライまで伸ばす。現在はラグビーW杯日本大会を成功させるべく、アンバサダーとして、メディア、講演等で精力的に活動中。
所属事務所:株式会社ディンゴ
http://dingo.jpn.com/ 

取材後記

インタビューの最後に「今の日本代表チームでプレーしたかったですか?」と質問したところ、意外にも大畑さんは「それはないです」と即答されました。そもそも「たら・れば」の話が嫌いだし、自分は自分の中で精いっぱいやってきたという自負があるので、と厳しい顔でおっしゃいました。その直後に「そうした質問をしてもらえるラガーマンの一人であることはとても嬉しいことですよね」と言って、いたずらっ子のような笑顔を見せてくれました。現役時代の大畑さんをマスコミは「10年に一人の天才ラガーマン」と呼んでいました。突出したスピードでトライを量産する姿を見れば誰もがそう思ったことでしょう。ただその肩書は当たらずといえども遠からずで、本当の大畑大介は「努力の天才ラガーマン」だったのです。

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■記事公開日:2019/03/04 ■記事取材日: 2019/02/22 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=編集部ライター・吉村高廣 ▼撮影=田尻光久

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