大人の趣味活 大人の趣味活

大人の趣味活

中高年のビジネスマンに"無趣味"な人が増えているそうです。この企画はそうした方々に、生涯楽しめる"なにか"を見つけていただこうというもの。
キープレスの無趣味なライターが体当たりでチャレンジする年4回のシリーズです。

VOL.2 そば打ち 味わう楽しみ 振る舞う喜び

実益を兼ねた趣味の代表格といえば、やっぱり"そば打ち"ではないでしょうか。実益とはいっても、商売にするにはそれ相応の覚悟と修業が必要ですが、基本的な技術を習得して道具を揃えれば「自分で打ったそばを食べられる」という楽しみがあるだけでも大いに"実"のある趣味になるはずです。
そこで今回は、そば打ちの体験教室に参加してみました。先生の実演を拝見した後、手取り足取りではあるもののどうにか仕上げ、自分で打ったそばに舌鼓。つくづくそば打ちの奥深さを実感した一日でした。

体験を行ったのは、東京の下町・葛飾区東立石にある「江戸東京そばの会」。手打ちそばの他、蕎麦店が提供する料理全般を教える料理教室です。つまりここに通う生徒さんは、脱サラして自分の店を持とうという気合の入った方が多く、これまでに200名ほどが繁盛店を開業されているそうです。「なんだか本格的なところに来ちゃったな」と密かに思っているところに、ご指導くださる橋本康夫先生が登場。そば打ち以前に、さっそくエプロンのかけ方を注意されるなど、前途多難な予感のもと体験がスタートしました。

ひと言に"そば"といっても、日本全国津々浦々さまざまな種類があります。十割(じゅうわり)、二八(にはち)、更科、田舎と、どれも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。これらの違いは、使うそば粉の種類や配合、つなぎ(小麦粉)の使用の有無などによるものです。一般的にポピュラーとされるのが十割と二八だそうで、そば粉だけで生地をつくる十割そばより、そば粉8×つなぎ2の配合でつくる二八そばの方が、比較的なめらかな口当たりが特徴なのだとか。この日体験したのも二八のそば打ちです。

まず、そば粉400gと小麦粉100gをこね鉢に入れ、手で粉同士を撹拌(かくはん)します。均質に混じるようにするわけですが、思った以上に鉢が大きく、鉢の中で粉があちらこちらに飛び散ってなかなか上手く混ざりません。なんとか粉同士の撹拌を終えたら、中央にくぼみをつくって水を溜め、今度は粉と水の撹拌を行います。「両手の指は熊手のように立てて混ぜ合わせてくださいね。しばらくしたら粉がブロッコリーのようなカタチに変わっていきますので」と言い残し、先生は一旦その場を離れて行かれました。

ブロッコリー、ブロッコリーとつぶやきながら撹拌に勤しんでいたのですが、一向にそれらしきカタチになりません。そこに戻っていらした先生が鉢の中の有様を見て、というより、見るにみかねて、ほんの少し加水をしてから、おもむろに私の手を取り、「こうです、そしてもっとスピーディーに!」と、まさしく手取り足取りの指導を再開。ここで実感したのは、作業は丁寧かつ繊細であることと同時に、手際良くスピーディーにこなさなくてはならないということ。もたもたしていると粉がどんどん水を吸ってパサパサになってしまいます。美味しいそばをつくるには、この水回しの工程が最も大事なところだそうです。

鉢の中にころがったたくさんのブロッコリー。これらを余すところなくまとめて練り上げてゆくのが、括り、練り、菊揉みの工程です。この工程をしっかりやることで、そばの食感、いわゆるコシが生まれるのだそうです。とはいえ、水回し同様、作業はスピーディーに行わなくてはなりません。練りの作業はイメージとして粘土工作ですが小手先だけではダメです。まとめ上げたブロッコリーを両手で包み込むようにして、手前から体重をかけて鉢の中心に向けて押し延ばします。これを繰り返すうちに、ごつごつしていた表面がなめらかになってゆき、手のひらに粘り気を感じてきたら練りの作業は終了です。

こね鉢で行う最後の作業が菊揉み。練りの作業でなめらかになったそば生地から空気を抜いて、バラつきのない食感に仕上げます。要領さえつかめば戸惑うことはないのでしょうが、初心者にはこの工程が難関です。空気を抜くために、回転させながらキズやシワを一か所に集め、最終的には菊のカタチに仕上げるわけですが、これがなかなか上手くいきません。再び先生のサポートを受け仕上がったものを見て、カメラマンさんがひと言、「これは菊というより、肉まんだね」。悔しいけれどもっともな感想でした。

いよいよここから、のし台での作業に入ります。最初の工程は延し棒を使った延ばし。「そば打ちの醍醐味はここにある」と、私が心待ちにしていた工程です。延ばしには、丸延ばしと四つ出しという2つの作業があります。丸延ばしは、菊揉みで仕上げた生地の中心部に小山を残す感じで、回転させながら延ばしてゆきます。直径が20㎝ほどになったら、今度は全体ができるだけ均等な円と厚さになるよう40㎝ほどの大きさまで延ばします。意外だったのは、手で練っている時は「硬い」と感じていた生地が延し棒を当てると比較的すんなり延びてしまうこと。それだけに力加減に慎重さが求められる作業でした。

丸くなった生地を四角形にして、より薄くするのが四つ出しです。丸延ばしで仕上げた生地を延し棒に巻き付けて縦方向に数回ころがすと、ラグビーボールのようなカタチに変形します。この要領で同じ作業を横方向でも繰り返すと、正円だった生地が四角形に。これを横幅約45㎝、縦方向約80㎝になるまで、型崩れしないよう注意しながら生地を薄く延してゆきます。先生から「力を入れすぎると生地が破けてしまうので気をつけてください」と言われていましたが、その通りのことをやってしまいました。その部分は打ち粉をまぶして無かったことに。幸い、先生は気づいていないようでした。

のし台に横たわる長方形のそば生地。これを切り出してそばをつくるわけですが、当然このままでは切れません。そこで必要となるのが畳みという工程です。要領としてはまず、縦方向80㎝を二つ折りにします。次いで、横方向45㎝を二つ折りに。この40㎝×22.5㎝の生地が畳み工程の最終形で、22.5㎝の側面を端から順に切り出してゆきそばをつくります。つまり、そば一本の長さは45㎝と結構な長さです。でもこれは、日ごろ私たちが食べているそばの標準的な長さだそうです。さて、いよいよここからがそば打ちの最終工程、そば切りにチャレンジします。

そば切りのポイントは"勘"です。まな板に置いたそば生地を上から小間板で押さえて包丁を落とす。落とした包丁をほんのわずか左に傾けて、小間板を小さく押す。そしてまた包丁を落とす。この繰り返しで40㎝のそばを右端から切り進めて行くわけです。そば一本の太さは約1.5㎜。つまり、切った直後に包丁を左に傾ける加減がそば切りの生命線です。「技術的にはここが一番難しいかも知れません。慌てず慎重にいきましょう」とおっしゃる先生の心配も余所に...ここは上手くクリアしました。そばの太さに多少の違いはあるものの、先生からも「上手い、上手い!」と、今日初めてのお褒めの言葉を頂きました。

写真上が先生が打ったそば。そして下が私のものです。こうしてあからさまに並べてしまうと、私のそばは太さにかなりのバラつきが目立ちますが、それでも、初心者ではなかなかここまで太さを揃えることはできないそうです。
水回しや菊揉みといった、そばのベースづくりでダメ出しを食らいながらも、最後の最後で大逆転。「私も独立をして店が持てるでしょうかね?」とお聞きすると、「さあ、それはどうでしょう」と先生は苦笑い。すべては"修業次第"ということのようです。

「それはそうと、打ったそばを食べて行かれますか?私の打ったそばと食べ比べてみてはいかがでしょう」と、先生から嬉しいご提案が。ぜひ!ということで、待つこと15分。いよいよ実食です。まずは自分で打ったそばから...これが、とても美味しい!すべてにおいて辛口のカメラマンさんも「うん、美味い」と素直に認めます。では先生のそばをと、ひと口すすると...これがまるで別物なのです。そばの太さが均等に揃っているため口当たりがなめらかで食べやすい。それに引き替え私のそばは、太さに微妙なバラつきがあるのがよく分かります。これには本当に驚きました。プロの技に脱帽しきりのそば打ち体験でした。

体験を終えて

自分で納得できるそばを打ちたい。その技を追及したい。料理を"クリエイティブな営み"と考える方には、ぜひお勧めしたい体験です。ちょっとした水加減、少しの力加減などでそばの味は変わります。しかもその工程がシンプルなだけに、勘や感覚に左右される部分が大いにある。そこである程度手応えを感じてくると「店を持ちたい」と考える方が多いのも分かるような気がしました。(編集部ライター吉村高廣)

橋本康夫先生から

老若男女を問わず、そば打ちを体験してみたいという方が増えています。その理由は、自分で打ったそばを食べる楽しみもありますが、人に振る舞う喜びもあると思います。ご家族やご近所さんに「私が打ったそばです」と言って食べてもらう。そこで「美味しかった!」と言われれば、誰でもますます腕を磨こうと考えるはずです。つまり、人に喜んでもらうことが原動力になる趣味。それがそば打ちの醍醐味です。

取材ご協力

江戸東京そばの会

〒124-0013 東京都葛飾区東立石3-24-8
TEL:03-3696-5351 HP:http://edotokyosoba.com/

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■記事公開日:2018/04/23 ■記事取材日: 2018/03/30 *記事内容は取材当日の情報です
▼監修・構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼撮影=田尻光久 ▼体験者=吉村高廣

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