着眼・最前線 着眼・最前線

着眼・最前線

志を同じくする人と人が『組む』と思ってもみなかった化学反応が起こる。

男性中心の老舗企業に身を置きながらも、しなやかな感性と
強いこだわりでプロジェクトを完遂してきた小沼のりこさん。
相乗効果をビジネスのエンジンに変えていく着眼点を聞きました。

イギリスで出会ったキュレーターという仕事

大学時代に日本の伝統的な文化を学びたくて美術史を専攻しました。今でこそ和食がユネスコの無形文化財に認定されるなどして日本文化は世界から評価されていますが、私の学生の頃はまだ、日本人自身に西洋に比べて日本は文化的に遅れているといった意識がありました。そうしたことに対してアンチな気持ちがありまして(笑)、あえて日本文化を掘り下げて学んでみたいと思ったのです。

在学中には学芸員の資格も取りました。ただ、最初の志を改めて考えてみて、それまで学んできたことを世の中に活かそうと思った時、美術史家になるというのは果たしてどうかなと。美術作品を虫眼鏡で見て分析したりするのは、自分としては「ちょっと違う」と思ったんです。

そもそも私がやりたかったのは、美術を軸として日本文化の紹介をしたり、そこを深めて実質的な日本の良さを多くの人とシェアすることです。そうした折り、イギリスから留学していた同級生から「イギリスなら、のりこが目指していることを専門的に学べるよ」と教えられ、イギリスの大学院に留学することを決めたんです。そこで私は、実際の展示企画は勿論のこと、空間構成に基づいたディスプレイデザインや、さらには、地域の小学校と連携した美術教育プログラムの作成などに至るまで、あらゆる側面から美術展を編集していく「キュレーター」という仕事に出会ったのです。

『文化の西洋志向にアンチな気持ちがあったんです』小沼のりこ

ショールーム設立に社内の壁

日本に戻ってからは、キュレーターのスキルを活かしてさまざまな美術関連の仕事に携わっていましたが、結婚をして子どもができたのを機に専業主婦になりました。当初は、すぐに仕事に復帰しようと考えていたのですが、思いのほか子育てに夢中になって7年間ほどどっぷりと家庭に入って子育てだけをやっていたんです。それは自分でも予想外でしたが、この経験なしには今の自分はないと思うような、大切で幸せな時間でした。今の生き方や仕事の価値観の土台が確立されたのもこの時期です。

そんな私に「うちで仕事をやってみないか?」と声をかけてくれたのが父でした。父の経営する会社に身を置く事には、正直迷いもありましたが、曾祖父の時代から続いてきた家業のことや、幼い頃から、父の事業に対する並々ならぬ熱意を聞き続けてきたことへの私なりの想いもあって、最終的には父の打診を受け入れました。やるからには、私の培ってきた経験と技術を生かして、新しい取り組みを実現したいという決意がありました。その中で、最初に着手したのが自社製品を展示して、訪れたお客様に詳細な説明が行えるショールーム「CSデザインセンター」の設立です。

そんな中、最初にぶつかったのは社内の壁でした。私は、社員がこれまでも十分にやってきたことだけではなく、活かしきれていないリソースにも光をあてて、今までにない方法で活用する仕事にチャレンジすべきだと考えました。百戦錬磨で仕事を続けている方々にしてみたら、私がやろうとしていることは、的外れで不要な事に思われたこともあるでしょうし、社長の娘が突然やってきて道楽半分でお金のかかることをやっていると思った人もいたはずです。快く思われていないこともしばしば感じましたし、精神的にはかなりきつかったのですが、気づかないふりをして前進しました。私を動かしていたのは、現状を少しでも良くしたいという誠意だという信念で、それが原動力になっていました。デザインは、体裁を整えるような表面的なものではなく、あらゆるものに宿っていて、人の知恵によって、人を幸せにするものです。それをまず、社内の皆さんに伝えたいと思っていたのです。
『デザインは、人の知恵によって、人を幸せにするもの』小沼のりこ

人との関わり方で仕事のクオリティは変わる

そうした複雑な環境の中で考えたのは、「どうしたらこの人たちと反駁し合うのではなく相乗効果を発揮できるだろうか」ということです。今思えば、この時期に、仕事を動かしていく上での、自分の流儀が生まれたように思います。つまりは、人と良い協力関係を築くための流儀です。

企画を考えるだけなら一人でもできます。しかし、それを実行するためには多くの力が必要です。しかもそれは、「仕方ないから手伝おう」ではなく、主体的に関わっていただかなければ良い仕事にはなりません。チームワークのプロセスにおいて、相手を攻撃して自分が優位に立つやり方には、強い違和感がありました。誰しも価値観や考え方が違うのは当たり前です。ただ、違うことを否定するのでなく、理解しあえる努力をして、相乗効果を期待できそうなポイントを見つけたら、それをみんなが共有できるように繰り返し、明確に示し続ける。そういうことを実行するにあたっては、自分は相当しつこい性格だと思っています(笑)。

こう書くと、まるで忍耐の日々のようですが、けしてそれだけではありません。私は、この流儀を実践することで、喜びも味わい続けてきました。それは、お客様に喜んでいただける結果や、難しい制作物を高いクオリティで完成させることなど、関わったメンバーが苦労をともにし、高いハードルを越え、相乗効果を生み出す瞬間を共有できる喜びがそこにはありました。その経験をかさねることで、仕事への取り組み方が変わって行くメンバーの姿を見る事もできました。それこそが私が魅了され続けている仕事の醍醐味なのだと思っています。

CSデザインセンターの仕事には、2005年から10年以上携わってきましたが、そこで学んだことは、「人と人の関わり方次第で仕事のクオリティは大きく変わる」ということです。その思いは、2015年に立ち上げた、ショップ、ギャラリー、コミュニティスペースを融合させた「組む東京」のボトムにもなっています。

『良い仕事にするには主体的な取り組みが必要です』小沼のりこ

これからは、自分目線のモノ選び、場づくりを

父の会社での10年間がなければ、「組む東京」はなかったと思います。平坦ではない道のりではありましたが、その一方で、素晴らしい人たちとの出会いも数多くありました。その出会いに導かれるようにして今度は「自分目線」で温故知新の精神が宿るモノを選び、その技術や知恵を持っている人と組みながら、それらを発信することにチャレンジしたくなったのです。

組むのテーマの軸は、日々の暮らしです。それを大きく打ち出そうとしたとき、会社から独立して自分なりの「場」を設ける道を選びました。その思いが集約されているのが、この「組む東京」です。

私は「場づくり」「空間づくり」に何かが生まれる可能性を感じています。人が集って、そこで交わることで思ってもみなかった化学反応のようなものが起こるダイナミズムをこれまでも多く目の当たりにしてきたからです。そのつながりに距離は関係なく、例えば、海外からはるばるお店に来てくださった方が、偶然、私の海外の友人と親しい間柄で、そこから大きな仕事に発展することもあります。小さな一つの空間ですが、リアルな場を持つ事によって、人が足を運び、出逢う。意図したことをはるかに超えた何かが自然発生的に起こる。それを私はよく「ミラクル」と表現していて。そんな場をつくるということに、とても大きな魅力を感じるのです。

自分目線で「良い」と思ったものは積極的に紹介していきたいし多くの人と共有したい。原点回帰とでも言いましょうか「アンチ西洋文化」は若い頃の思い込みとして、日本文化のDNAの素晴らしい部分を大切にする社会であってほしいという大学生の時に思い描いていた自分の夢に、歳を重ねてようやく追いついたといったところでしょうか。


『場づくりに何かが生まれる可能性を感じています』小沼のりこ
編集後記
概ね10年くらいのサイクルで大きな節目があるんです。とおっしゃる小沼さん。振り返れば、イギリス留学から日本の美術界で社会人としてのスタートを切った時期、その後母となり子育てに没頭した期間、さらにはお父さまの会社で仕事復帰して采配を振るった日々があります。そして、どのシーンでも楽しみながら目の前のことに取組み、新たな着眼点を得て、次なるシーンでそれを活かしてこられたのではないかと思います。そして今、自分らしさを100%発揮できる場を設け、水得た魚のように仕事に向き合う小沼さん。次なる10年がとても楽しみな、とってもクリエイティブな女性でした。(編集部ライター・吉村高廣)

取材協力:小沼のりこ
株式会社組む 代表取締役
組む東京 ブランディング・ディレクター キュレーター
URL:http://www.kumu-tokyo.jp



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■記事公開日:2016/07/26 ■記事取材日: 2016/06/23 *記事内容は取材当日の情報です
▼編集部=構成 ▼編集部ライター・吉村高廣=文 ▼渡部恒雄=撮影 ▼撮影協力=株式会社 組む

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