ビジネスBOOK #4

マーケター赤間裕樹の 必読!この一冊

『日本人に遺したい国語
101歳最後の授業』 橋本武著/幻冬舎

何事にもスピードが求められる昨今のビジネス環境で、
答えを急ぐビジネスパーソンに「待った」の声をかけるのは、
数多くの東大合格者を輩出することで知られる灘中学・高等学校で、
国語の名物教師として知られた橋本武先生です。

中学の3年間、教科書を一切使わずに
小説『銀の匙』一冊だけを徹底的に読み込み理解する。
そんな授業を50年間の教員生活を通して貫き、100歳を目前にして
再び教壇に立ったことでも話題になりました。

一見、国語の在り方を記した学習書をイメージさせるタイトルですが、
この一冊からビジネスパーソンが学ぶことはたくさんあります。
トレンドや調査結果という目に見えやすい現象だけを捉えて
安易に答えを出すのではなく、"実践主義の大事さ"を示唆する名著です。

遠回りしても徹底的に理解する

日本における最難関の進学校において、奇抜な授業が多くの生徒や保護者に支持された一番の要因は、「考えることは楽しい」と生徒自身が気づくことが出来たからに他なりません。その基本姿勢は「徹底して理解する」こと。先生は、単に『銀の匙』を読むだけではなく、作中に登場する語句を隅々まで注意深く調べ上げることを生徒たちに課したと言います。

例えば「干支」が出てくれば、十干十二支(じっかんじゅうにし)まで裾野を広げて調べ、昔の時間の捉え方を学びます。また、漢方薬が出てくれば、漢方医学の歴史や中国の薬祖神である神農の話にまで及びます。知らなかったことや興味を持ったことは、あえて横道に逸れてでも、納得がいくまで掘り下げて考えることが、言葉の意味や物語の内容を「徹底的に理解する」ためには不可欠だと述べています。

辿り着いた答えは一生の財産

ビジネスシーンでも「徹底的に理解」しなければならない場面は多々あります。商品が売れなくなってきたのなら、利用者はなぜ購入しなくなったのか。ライフスタイルや価値観が変わったのなら、それはなぜ変わったのか。利用者の家族や職場、生活では何が起きているのか。その変化を引き起こした社会的・経済的な要因は何か。そのように追求した先にこそ、ビジネスに役立つ新たな発見があるのです。

しかし実際には、時間に追われてついつい目に見えやすいデータや情報を頼りに、次の打ち手を安易に決めてしまうこともあるのではないでしょうか。そんな現代の風潮に、橋本先生は時間をかけて納得できる答えを出すことの大切さを次のように示唆しています。
「すぐに役立つものはすぐに役立たなくなります。時間をかけて辿り着いた答えは一生の財産になります」

探究心が社会を生き抜く力になる

曖昧な事柄はそのままにせず、必ず調べて正しい答えを導き出す。それを習慣にすることで、確固たる自分のスタンスを確立する。橋本先生が授業を通して伝えたかったことは、国語力の大事さだけではなく、『学びを通して社会を生き抜く力』です。先生は本書の中で次のようにも述べています。
「ともすると、社会に出てからの問題のほうが解きにくいのかもしれません。自分がどういう人間で何をすべきなのか、相手のことを理解するにはどうしたらいいのか、これらを知るには『学ぶ力』が必要なのです」

複雑化・多様化する現代社会では、答えがわからない、一つではないという局面ばかりです。だからこそ、ときには立ち止まってじっくりと考え、あえて横道に逸れてみることをしながら、ものごとの本質を探究する。さまざまな事象に対して、そうした向き合い方をすることが私たちビジネスパーソンにも必要なのだと、教育者人生をかけて1冊の小説を追求し続けた著者の言葉から気づかされます。

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■記事公開日:2018/11/14
▼構成=編集部 ▼文=赤間裕樹

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