日本の匠シリーズ 日本の匠シリーズ

日本の匠シリーズ

vol.5 日本製の手作り洋傘 東京都中央区/小宮商店の洋傘

すべての工程を丁寧に、一本ずつ。伝統が息づく高級洋傘作りの老舗。

四季折々の自然と向き合い、自然と共存してきた日本人には
雨に寄り添う傘というのがありました。

「蚊遣り」はご存じでしょうか?葉や木くずなどをいぶし、またはお香などを焚いて蚊を追い払うという意味です。日本では古来からこの蚊遣りという方法で蚊を追い払ってきました。決して駆除、殺虫ということではなく、四季折々の自然と向き合い、自然とともに暮らしていこうという意識が高い日本人ならではの、生活の知恵の一つです。

傘も同じでした。雨を凌ぐために頭上に広げ差しかざすツールという一面だけではなく、傘には「雨に寄り添う」という粋で繊細で美しい日用品であった時代がありました。和傘、番傘です。竹の骨組みと軸は見ているだけでうっとりする造形美に溢れています。骨に貼り合わせた和紙、その上に防水のために塗る植物油から醸し出される光沢は文芸文化の香りが漂います。

手作り洋傘一筋八十六年の高級洋傘作り

手作り洋傘一筋、八十六年。都内でも希少な老舗の洋傘店に脈々と受け継がれているこだわり。

しかしながら番傘は、手間暇をかけようとする職人の減少などから希少なものとなり、それはやがて洋傘にとって変わっていきます。こうした時代の流れを傘作りを通して見つめてきた店がありました。

昭和5(1930)年、東京都中央区東日本橋で創業した小宮商店です。今では老舗の洋傘店となった小宮商店には、ひとつのこだわりがありました。「たとえ時代が変化しても、自社で良質な物を作る」。この創業者の小宮宝将氏の一言は職人魂として、平成の今も手作り洋傘一筋の伝統の中で脈々と受け継がれています。

私たちはともすると、傘には機能性や便利さだけを求めます。結果としてビニール素材の傘でも十分に役割は果たしてくれます。ところが安価で簡単に手に入れやすいモノというのは、往々にして愛着が湧かない。雨が止めば、とたんに折れ曲がったビニール傘が、ゴミとしてぞんざいに捨てられています。

一枚入魂で丁寧に丹精を込めて作られる畳み

日本人の心と通じ合う洋傘は世界中探してもここにしかない、と言い切れるほど自信に溢れています。

それではビニール傘が主流の時代に、なぜ小宮商店の日本製洋傘が求められているのでしょうか。その一つは、洋傘でありながらも使い手は日本人、和だという一面が顔を覗かせます。雨露を凌ぐためだけの道具ではなく、あの番傘の「雨に寄り添う」という日本人の心と通じ合うスピリチュアルが、小宮商店の洋傘にはあるように思えてなりません。

さらに傘に使われるテキスタイルへのこだわりが、日本人の感性に訴えるからではないでしょうか。それもそのはずです。生地は、創業者自身の出身地、山梨県にある歴史と伝統のある織物「甲州織」製です。古くは「甲斐絹(かいき)」と呼ばれていた織物で、実に深みのある色合い、独特の底艶は、しっとりとした温もりを感じます。小宮商店では、この甲州織の生地を使い、熟練した職人技で一本一本、丹精を込めて手作りで洋傘に仕上げていきます。

加藤畳店十四代の店主が作るこだわりの手縫い畳み

一子相伝の技を職人に捧げるミシン。手作り工程の中でも唯一の機械かもしれません。

まず甲州織の生地を木型に合わせて三角に裁断します。裁断には研ぎ澄まされた細心さが求められます。ほんの少しも狂いのない手さばきからこそ、結果として完成度の高い美しい傘が生まれます。次に裁断した生地を一枚ずつ縫い合わせていきます。この縫い合わせは、何十年も共に歩んできた趣あるミシンが相棒となります。そのミシンの仕事は、悠々たる気運を高めて一子相伝の技を職人に捧げています。

生地の縫い合わせ(中縫い)が終わると、骨の関節部分(タボと呼びます)に生地と密着した時に汚れや擦れたりしないために布で包む「ダボ包み」を指先で施していきます。引き続き「ロクロ包み」「天がかり」「口とじ」「中とじ」「陣笠・菊座つけ」などの作業作法を積み重ねます。こうして開きやすく閉じやすく、日本人の手に馴染む持ちやすい洋傘が、職人の作り手の中から生まれます。使い手には満足感のある、使うほどに愛着が深くなる高級洋傘が仕上がります。

熱い気持ちが指先に伝わり畳みを作り上げていく

温故知新のエッセンスを凝縮。世界に通用する高級洋傘と言えば小宮商店となる日も近い。

「私たちがお届けする傘は、伝統的な生地や技法を用いた、日本の熟練職人ならではの手仕事が感じられる高級傘」と小宮商店の三代目、小宮宏之さんは語ります。たかが傘、されど傘。作り手と使い手の気持ちが見事にマリアージュしたのが小宮商店の日本製洋傘ではないでしょうか。

ご夫婦で小宮商店の傘職人だという小椚さんは、工業生産品ではなく手作りによる洋傘作りの難しさについて「とにかく細かい作業が多い。生地の裁断から最後の先端に付ける菊座と陣笠まで一切気が抜けない」と話します。「この難しくて、気の遠くなるような丁寧さを身体で覚えるとなると、後継者がなかなか育たない」と未来への不安を口にします。しかし小宮商店の洋傘には、その不安を払拭する温故知新のエッセンスが凝縮されていました。

まず高級洋傘づくりの老舗として伝えられてきた『技』と甲州織の生地への『こだわり』という職人魂が息づいています。そのうえで、新しき生まれる傘は見事に『スタイリッシュ』で、世界にも通じる『ハイセンス』が伺えます。近い将来、小宮ブランドの高級アンブレラがワールドワイドに圧巻するものと信じて疑いません。

現代の住まいにも柔軟に対応する畳み
熱い気持ちが指先に伝わり畳みを作り上げていく
取材手記 ライター高橋千織
毎日でも使い続けたいと思える傘に出会いました。

傘がこんなにも美しいと思ったことは、これまで一度もありませんでした。甲州織の鮮やかな光沢感と手触りは、まさに高級傘そのものです。裏と表の色が違ったり、裏に絵柄が丁寧に施された傘は格別にお洒落です。売れ筋は、男女兼用の程よい大きさの16本の骨組み傘だとか。通常は骨組みが多いほど重量があるのですが、小宮商店の傘は女性が手にしても軽やかです。これからの梅雨時でなくても晴れの日でも(笑)、持つのが楽しみな傘と言えそうです。

■記事公開日:2016/05/20 ■記事取材日: 2016/04/04 *記事内容は取材当日の情報です
▼編集部=構成 ▼編集部ライター・渡部恒雄=監修 ▼高橋千織=文 ▼高橋千織=撮影

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