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vol.2 越前打刃物の和包丁 福井県武生市/越前打刃物『いわい』の和包丁

作り手の情熱に、使い手の愛情が加わることで、単なる包丁は初めて「一生使える」逸品になる。。

福井県武生の越前鍛冶工房『いわい』の和包丁。職人入魂の切れ味と使い勝手の良さは、まさに一生使える包丁。

職人の多くは、こだわりを持って一生使えるモノを頑固なまでに作ります。包丁鍛冶職人ならば、軟鉄とハガネを丁寧に重ね、丹念に打ち鍛えて作り上げる伝統的な技術もさることながら、素材と向き合う精神、一徹な主義主張、さらに生き方までも、一本一本に込めていきます。こうして生まれてきた包丁は、これが本来のモノづくりだと言わんばかりの自信の腕前を雄弁に語ります。

福井県武生の越前打刃物の中でも鍛冶工房『いわい』の包丁は、まさに職人入魂の切れ味と使い勝手の良さを携えて、やがて使い手に渡ります。ここからが一生使えるモノの真骨頂です。使い手が必要なことは、日々のメンテナンスと愛情だけです。使ったら台所用の洗剤で洗い、お湯で流す。そのあとは乾いた布で拭き取る。作り手と同じように使い手も道具への愛情を注いでこそモノは道具を超えた「一生使える愛用品」になります。

『いわい』の和包丁は錆びやすいと耳にします。もし錆びにくい包丁を求めるならば、それは外国産のステンレス製の洋包丁が良いかもしれません。大量生産された消費されるために生まれてきた道具を選んだほうが安心です。『いわい』の包丁は錆びる包丁ではなく、日々のメンテナンスと愛情さえあれば錆びることは少ない。つまり使い手が錆びさせているということに早く気がつく必要があります。

使うほどに愛着が深くなる伊賀焼の土鍋

包丁に歴史が刻まれていく。その包丁を再生させることができる幸せにお金をいただくわけにはいきません。

どんなモノでも使えば使うほど傷みは出てきます。切れ味が持続し刃こぼれしにくい包丁でも、長年の使用で、柄や口金が摩耗したり、使い手の癖から刃が傷んだりすることはあります。それは欠損ではなく、実際に使われてきた経過年数が、使い手の癖や息づかいとともに包丁に染み込むからです。包丁に歴史が刻まれた証です。

歴史を刻んだ包丁は根本的な機能を失うことなく、まだまだ使える「一生使える愛用品」になりますが、愛情を注がれなかった商品は、使い物にならない朽ちたゴミとなって捨てられる運命にあるかもしれません。

一度ご購入いただいた鍛冶工房『いわい』の包丁は、研ぎや修理についてのお代金は極力抑えているとのことです(柄の交換など作業内容により一部有料)。それはなぜか。職人の答えはシンプルでした。自分で丹精を込めた包丁がまた自分の手元に戻ってくる、そんな嬉しいことはない。再び自分の手で研ぎ、場合によってはその使い手の癖をよみとって、さらに使いやすい包丁に再生する。包丁を通してご縁をいただける幸せにお金をいただくわけにはいかない。鍛冶職人・伝統工芸士の岩井丈(いわいたけし)さんは語ります。

伊賀焼土鍋の魅力の一つは素朴な質感

手間暇かけて丁寧に一本一本作り上げる。黒打ち両刃の和包丁は一回の火造りで30本が限界。オーバーワークと言われても作り続けたい。

潔い武士道のような男に久しぶりに会いました。しかし笑顔は優しく普段は柔らかい表情の鍛冶職人の岩井さんが、近寄りがたい雰囲気と緊張感を醸し出す瞬間があります。

越前の伝統的な技術は、ハガネを鉄で挟む手法だそうですが、いわい流はハガネに鉄を重ねて叩く、大阪や東京で好まれる面倒な工程が続く技術作法です。打ち鍛えて伸ばす、火に入れては叩き伸ばす。鉄とハガネを幾重にも重ねて鍛造(たんぞう)していきます。やがて赤められた地金を形を整えながら、柄の中に入り込む中子(なかご)を作ります。さらに何度も赤める、何度も叩く。ひとつの炉に1本が原則。まさに一本勝負の制作となった時は、厳しい顔つきでまるで別人のようでした。

さらに工程は続きます。鉛を溶かしてその熱で包丁を漬け込む焼き入れ。1本1本研ぐ作業。その研ぎの作業で、包丁のランクが付けられていきます。さらに風紋(ふうもん)と呼ばれる模様を施していきます。研ぎの回数、研ぎ方、風紋により、多様なニーズにこたえていました。しかしいずれも全行程が手作のため、黒打ち両刃の和包丁などは一回の火造りで30本が限界だとか。

使うほどに愛着が深くなる伊賀焼の土鍋

使い手のことを考えて作る技。祖父から、父から受け継いだこの技を、惜しみなく注ぐのが『いわい』の和包丁です。

特にスペシャルな一本を作る時は、相当の集中力と高次元な技を発揮しなければなりません。まず使い手のことを考える。どんな料理に使うのか、手の大きさはどうなのか。持った時の刃と柄のバランスは良いか。包丁を持った時、人差し指のあたりにちょうど重心が来るような、自然な落ち着きどころを探る。触ってはわからないが、食材を切った際にスムーズに切り落とせるように、刃の部分に少し"波"を付けて研ぐ・・・祖父から、父から受け継いだ職人技が包丁一本に満ち溢れます。

それでもその一本を求めて、最近では目利きの厳しい外国の料理人からオーダーが増えていると岩井さんは話します。「職人が下を向いて仕事をしていた時代がありましたが、これからは、伝承技術を基本にして、プラス思考の上を向いたモノを作っていきたい。グローバルな展開もしていきたい」「ファッションショーで使われる小道具やマネークリップなど。ナイフの柄のガラを、福井県で生産を誇るメガネのフレーム素材を使ってみたり」。『いわい』の「一生使える愛用品」は和包丁という領域をすでに超え始めたようです。

七代目長谷優磁氏
取材手記 ライター渡部恒雄
気さくな温もりを感じる高級和包丁でした。

七百年の伝統を誇る越前打刃物の中にあって、『いわい』の鍛冶は3代目。製造工程もハガネと鉄との合わせ方が、七百年の技術とはまるで違うという少数派の職人でした。工程数も多く、一本一本手作りというイメージから、岩井さんが作る和包丁には、高級感という威風堂々とした趣があるかと思っていましたが、実際に手にとると、普通の方にも質の高い包丁を、という敷居の低さを感じました。もちろん決して安い物ではありませんし、メンテナンスも簡単ではありません。でもこの包丁を持つと「さあ、お料理してごらん」と語りかけてくるような気さくな温もりを感じるのです。

■記事公開日:2015/07/03
▼編集部=構成 ▼編集部ライター・渡部恒雄=監修 ▼編集部ライター・渡部恒雄=文・撮影

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