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株式会社城野印刷所
熊本県上益城郡益城町広崎1630-1

http://www.jono.co.jp/

低迷する印刷業界の中で逆転を狙う

1990年代のバブル崩壊を境として、印刷市場は縮小の一途をたどっている。経済産業省の「工業統計表・産業編」によれば、好況のピークだった1991年の市場規模は約8.9兆円。ところが現在は6兆円を割り込む水準まで落ち込んでいる。また、印刷業界は商圏が限られる地域密着型が特長だ。特に地方企業となれば、営業が通える範囲内の企業や官公庁がメインのクライアントとなるわけだが、いずれも印刷物の発注量が減り、狭いエリアで過剰な価格競争に陥っているところも少なくない。こうした厳しい環境下にあって、ビジネスの仕組みと社員の意識改革を促し、地方においては極めて稀な「新しい印刷会社のカタチ」を目指しているのが熊本県に本社を置く株式会社城野印刷所だ。
「印刷自体は下火になっています。しかしながら、お客さまの事業をどこよりも深く把握して、お客さまのところに人が集まるような仕組みからご提案することができれば、印刷量が減った分の収益は補完することができます。私たちはすでに、紙に印刷するということを事業の根幹には据えていません」と話すのは営業統括部長の松下和宏氏。衰退産業と言われる印刷業界の中で、逆転に向けた策と意気込みを聞いた。

クオリティだけでは太刀打ちできない

城野印刷所の創業は大正5年。来年(2016年)には百周年を迎える熊本県の老舗企業だ。創業当初は写真館として事業をスタートし、九州で初めて『コロタイプ』というハイクオリティな画質を再現できる写真印刷技術を用いた卒業アルバムの制作で一躍その名を世に広めることとなった。
「卒業アルバムの制作というのは、各地の写真館が営業の窓口になります。したがって、写真館と学校が良い関係を築けなければ印刷の仕事も発生しません。それに加えて近年は、デジタル技術の進化で非常に安価に制作できるようになりました。そんな時代においては、写真や印刷のクオリティだけではとても太刀打ちできません。お客さま(学校指導者)がベネフィットを感じられる付加価値提案が必要です」。

付加価値提案という試み

こうした課題を解決する1つの施策として城野印刷所が取り組んでいるのが、小・中・高校のクラブ活動で使用する『CLUBサクセスノート/商標登録出願中』の販売提供だ。これはいわば、クラブ活動の練習や試合の記録帳のようなもので、学校の先生の要望を盛り込みつつ、生徒が自分の目標で立て対戦等で感じたことを記録し反省し改善する自主管理できる教育教材だ。「これを1つの営業ツールとして、街の写真館が学校と、より密接なコミュニケーションを築いていただくことができれば、弊社にも卒業アルバムの印刷受注が今以上に増えるのではないかと期待しています」。
現在は、黙って口を開けて待っていれば仕事が入ってくる時代ではないと松下氏は言う。お客さまにとって意義がある付加価値提供を行いながらwin×winの関係を積極的に築いていくことが、今の時代を生き残り、更なる成長を遂げる鍵になるのだと。

印刷物は『おまけ』であり『金の卵』でもある

卒業アルバム制作を唯一他社との差別化が行える事業としながらも、現在は全体の売り上げの3割ほど。印刷だけを考えるなら、県内大手百貨店のチラシ・リーフレットや官公庁の印刷物が主だと言う。「印刷オンリーにしがみついていたら、いつかは衰退するであろうことは分かっています。したがって今のうちに視点を切り替えて、いろんなビジネスにチャレンジして行かなくてはなりません。その延長線上に副産物として印刷が発生すればいいじゃないかと。つまり、印刷物は『おまけ』なのです」。
印刷会社は攻めの姿勢を持ってどんどん多様化して行かないとだめだと松下氏は話す。これを実現させるために、城野印刷所では月に2回ほど社内でアイディア会議を行っている。新しい事業展開についてそれぞれの社員がアイディアを持ちより話し合うというもので、希望すれば誰でも参加することができる。この中から『CLUBサクセスノート』も生まれたし、デザインチームの自主提案により『LINEスタンプ』の販売なども実施され、若手社員の意識も変化してきていると言う。
「ただ、勘違いしてはならないのは『おまけ』こそ大事にしなくてはならないということです。『おまけ』というのは、お客さまのお困り事にしっかり耳を傾けて、そのご要望にお応えする中から生まれた『金の卵』に他なりません。したがって『金の卵』がきちんとした製品でなければ、私どもの存在価値を自ら否定していることになってしまいます。『金の卵』は孵化し親鳥になり、『金の連鎖』を育む。健全に継続すれば、歴史となるでしょう」。

社員の頑張りを数値化して評価する

しかしながら、印刷を生業とし、その仕事に誇りを持って会社の発展に貢献されてきた社員も大勢いるに違いない。そうした社員たちは、印刷物を『おまけ』と位置付けることに反発はなかったのだろうか...。これに対して松下氏は次のように話す。「新しいことをやろうとすれば、それに反対する人が必ず出てきます。そうした人たちを説得するためには数値化することが大事です」と。
城野印刷所では、仕事の原価を全て時間軸で計算(基本的には1分間60円換算)して、社員の働きを評価する仕組みをつくった。それに伴い人事評価についても、16項目のチェックシートをもとにまず自己評価し、それに対して直属の上司が評価を加え、その後社長と松下氏が公平な目でジャッジするという人事評価方式に変更した。このことで仕事に対する頑張り方が変わった社員も多いと言う。「上司にしてみれば直下の部下を心持ち高く評価する傾向にあると思いますが、そうした温情的な部分を排除して、あくまでもフェアな評価を行うものです。ただこうしたことをやろうと思えば嫌われ者になりますね(笑)」。

サラリーマンから商売人へ

あらゆるものを数値化する習慣付けは、一般社員も大事な心がけだと松下氏は言う。クライアントを説得する場合、これまでの経験則やクリエイティブな発想力も非常に大事なものに違いないが、イメージだけで人の気持ちを動かすことは今の時代は難しい。そこにはどれだけの費用がかかって、どの程度の収益が見込めるかなど、理詰めで行かなくては相手は納得しない。
「要は、サラリーマンから商売人になるということです。皆が当事者意識を持って経営を支える骨にならなくてはいけません。現在は40歳前後の社員たちにさまざまな宿題を与えています。以前はある程度軌道に乗るまでサポートしていましたが、今は3まで言ったらそこから先は制作にかかる費用から採算面まで含めて任せるようにしています。残り7の中から私と違った発想が出てきたらしめたものです」。
松下氏自身、50代になって時代との齟齬感を感じることがあると言う。そうした中で、自分の価値観で発言してしまうと、今の時代通用しないことも多々あることに気づいている。「だからこそ、それぞれの社員が自分の頭の中で汗をかいてもらって何とかカタチにして欲しいのです。そこで必要となるのが数字の尺度です。企画だけではなく具体的なお金の工面まで想定して、なんとしてでもこれを実現させたい!と強く想うことができれば、商売は十中八九成立するものです」。

新たな経営の試金石として

熊本県では、2014年から『全国ふりかけグランプリ/主催:一般社団法人国際ふりかけ協議会』というイベントが開催された。熊本県はふりかけの発祥地でもあり県内需要も関心も非常に高い。このイベントを通じて大きな『金の卵』が生まれた。
「今回、こだわりの農家の美味しいお米と、豊かな食卓を熊本から発信する為、主催者と協議し『ふりかけグランプリ2014・厳選 食べ比べセット』というセット商品を共同開発しました。セットの中身は、ブレンド米一袋と、全国各地から40種類のふりかけを選りすぐり、ふりかけグランプリで優秀賞を取った商品を詰め合わせて販売しました。販売権は弊社(グループ企業:株式会社ゴビット)にあり通販でも取り扱っています。ツールの印刷は弊社で行い、セットのパッケージデザインまで手がけています」。
こうした取り組みは、城野印刷所が目指す新たな経営の在り方を占う上での試金石となっていることは間違いない。社会が不況になってくると印刷物予算は一番最初に削られる。ところがその印刷会社が知恵を出し、顧客の利益を創出するようなカタチを作ることができれば、それはお互いの大きな財産になる。その財産をより多くつくるべく、待ちの姿勢から攻めの姿勢へとシフトチェンジして、今ようやくそれが定着しつつある。古い固定概念からの脱皮。熊本の老舗企業・城野印刷所は今、その過渡期にある。
※記事中紹介:LINEスタンプ
※記事中紹介:グループ企業(株式会社ゴビット)通販事業

皆が当事者意識を持って経営を支える骨にならなくてはいけません。
■記事公開日:2015/06/09
▼編集部=構成 ▼編集部ライター・吉村高廣=文 ▼吉村高廣=撮影 ▼写真・資料提供=株式会社城野印刷所

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