着眼・最前線 着眼・最前線

着眼・最前線

多肉に触れた人たちを笑顔にすることで、今日を生きるパワーがうまれる。

やりがいのある仕事とのめぐり合い。いきいきとした人生の発見。
「好き」という言葉ではくくれない、
「啓示的な出会い」を実感した近藤義展さんに聞きました。

置かれた環境に適応しながら生きる植物

多肉という植物の歴史は古く、江戸時代からその原種と呼ばれるものがあったと言われています。これまでにも園芸を趣味とされる一部の方々の間では細々とした人気があったようですが、インテリアとして注目されるようになったのはここ数年のこと。そうした意味ではまだまだこれからのグリーンアイテムと言えるでしょう。
多肉の魅力は、季節折々の表情があることです。「植物なら当たり前でしょ?」と考えられがちですが、それは屋外の樹木のことであり、室内で育てる観葉植物などは1年を通じて同じ表情のものがほとんどです。それにひきかえ多肉は、クリスマスシーズンからお正月にかけてどんどん紅葉していきます。また、紅葉というと葉が落ちていくイメージがありますが、多肉の場合は葉を落とすことなく暖かくなるとまた緑に変わっていくという一貫した生命のダイナミズムを保っている特殊な植物です。
多肉に魅せられたのはまさしくその部分で、自分が身を置く所に応じて姿を変えながらも生きようとする生命力です。寒さや暑さ、明るさや暗さ、さらには水分の多さや少なさなど、植物にはそれぞれに生命を維持しやすい環境があります。その環境が維持されなければ植物は枯れてしまいます。
ところが多肉は、健康な状態で生きていける環境ではなくとも、必死で生き伸びようと姿かたちを変えて環境に適応しようとします。その必死さに心を打たれるものがあるんです。
いま多肉は小さなブームになっていますが、それはやはりストレスフルな現代社会の中で「なんとか力強く生きていかなきゃ」という人間に、不思議なインスピレーションを与えてくれるからだと思います。
ストレスフルな現代社会だからこそ?近藤義展
ストレスフルな現代社会だからこそー近藤義展

植物を育てる資格はないと思っていた

櫻井龍也ストレッチ2 とはいえ多肉と出会った瞬間から恋に落ちたというわけではありません。付き合いが長くなるに連れて次第にその魅力に「気づいていった」というのが正直なところです。そもそも多肉だけではなく植物自体に興味はなかったんです。多肉と出会うまでは家で観葉植物を育てても必ず枯らしてしまうほどで、植物を育てる資格はないと確信していました。
ある時、親類に勧められて訪ねた園芸クラブで多肉のリースと出会います。それは高い商品で値が張るリースでした。ところが妻がそのリースを欲しいと言いだして。これまで1つとして観葉植物を育てられたこともないのに、高いリースをわざわざ買うこともないだろうと。そこで妻を納得させるために「僕がつくるよ」と約束したわけです。正直なところ本気で作ろうと考えてはいませんでした。
ところが作り上げた多肉リースを見た妻が非常に喜んでくれたんです。「こんなに喜んでくれるなら、もっとやってみようか」ということで、そこから徐々に多肉を使ったグリーンインテリアの世界に入っていった次第です。そんな中で、ある方の勧めがあってガーデニングショーに応募したところ賞をいただきまして、その翌年は僕が多肉で、妻が花でエントリーしてみたら、なんと夫婦そろって受賞。仕事として多肉に向き合い出したのはそれがきっかけでした。
多肉植物 ときいろ きっかけは妻の喜ぶ顔が見たかったから?近藤義展

多肉の強い生命力に魅せられて

多肉と付き合ううちに彼らの非常に強い生命力のようなものに心を動かされるようになっていきました。その心模様の変化は、これまでの自分の生き方と関係しているかも知れないと思っています。
実は若い頃、音楽の道を目指して大きな挫折を経験しているんです。大学の薬学部を中退してプロミュージシャンの道を歩き始めたのですが鳴かず飛ばずで、幾つかレコード会社も変わりましたが結局売れずに途中で諦めました。それ以降は、会社に所属せずにある商材を売るセールスのようなことをかじってみましたが、そちらの方も上手くいかず途中でやめました。結果、自分に残ったのは返済が滞っていた楽器や機材のローンだけ。かなりの金額でしたがお金がないので当然払うことはできません。毎日のように借金取に怯えながら過ごす生活が続き、30代の前半には肉体的にも精神的にも崩壊寸前までいきました。毎日考えていたことは「自分には生きている価値なんかない」ということです。
全てを失ってどん底に落ちていたとき、古い知人から「アンテナ工事の仕事をやってみないか?」という打診があったんです。泥臭い仕事だけれど、しっかりやればお金になるよと。その時は一瞬「皮肉だな」と思いましたね。かつては華やかなステージに上がることを夢見たのが、上がる場所が随分違って現実には屋根に上がることになるのかと(笑)。ただ、その頃はもうつまらないプライドのようなものはなく、生きるためには、どんな所でどんな姿になろうとも必死にもがかないとダメだということが身にしみて分かっていたので、深く考える前にその仕事に飛びつきました。少し話しはそれましたが、多肉の生命力に魅せられたのは、おそらくそうした経験があるからではないかと思っています。

自分には生きている価値なんかないー近藤義展

すべての出会いは偶然でなく必然である

考えてみると不思議なものだなと思うことが時々あります。植物なんてまるで興味がなかったのに、なぜあの時リースを作ってみようと思ったのか。肉体的にも精神的にも崩壊寸前だったのに、なぜあの時全く異分野のアンテナ工事の仕事をやってみようと思えたのか。いずれも偶然だし、強い主体性を持って始めたことではありません。ただ、今の自分があるためにはどちらの出会いも欠かせないものには違いありません。二つの出会いは偶然ではなく、振り返ると必然だったのかも知れません。
今はこうして多肉の素晴らしさを多くの人に伝える仕事をさせていただいていますが、この仕事をしていて何が良かったかといえば人が笑顔になってくれることです。最初はたくさんの苦労をかけた妻の笑顔を見ることにパワーをもらいました。そして多肉を仕事にしたことで、多肉に触れた人たちがみんな笑顔になってくれることに今日を生きるパワーをもらっています。
昔は大好きな音楽で人に感動を与えたり喜ばせたいと思っていました。でも今は、まるで興味がなかった多肉を通して、同じことができていることに僕自身が生きる喜びを感じています。大局的に考えれば、仕事のやりがいや人生の価値というのは好きなことだけで得られるのではなく、何か啓示的な要素をもった出会いによっても発見できるのではないだろうかと。それが僕の着眼点です。

人生の価値は啓示的な出会いによってー近藤義展
編集後記
長い人生の中ではさまざまな出会いがあります。振り返ってみると、そうした出会いによって今の自分が形成されていることに改めて気づかされるものです。そう考えたとき「仕事のやりがいや人生の価値というのは好きなことだけで得られるのではなく、何か啓示的な要素をもった出会いによっても発見できるのではないだろうか」という近藤さんの言葉は大きく胸に迫ってきます。(編集部ライター・吉村高廣)

取材協力:季色(ときいろ)
代表:グリーンスタイリスト・近藤義展
URL:http://www.tokiiro.com
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■記事公開日:2014/11/14
▼編集部=構成 ▼編集部ライター・吉村高廣=文 ▼渡部恒雄=撮影 ▼撮影協力=季色(ときいろ)

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